エバンス城にエーディンの姿
はなかった。
すでに公女はヴェルダン国内
へと、
連れ去られた後だったのだ。
ヴェルダンは、深い森におお
われた国。
たびたび国境を荒らしたヴェ
ルダンを
グランベルの人々は蛮族と呼
んでいる。
今のヴェルダン王バトゥの代
になって、
国境での戦いは止んでいた。
おだやかな性格のバトゥ王
は、
野望に燃える息子たちをなだ
め
グランベルとの和平を保って
いたのだ。
しかし、その和平は
他ならぬバトゥ自身によって
破られた。
バトゥ王は、三人の息子たち
に
グランベル侵略の命を下し
た。
ジェノア城の次男キンボイス
マーファ城には長男ガンド
ルフ
そして末弟ジャムカ
森にひそむ蛮族たちが
シグルドを待ち受けている。
エーディンは一体、どこにい
るのか、
バトゥ王はなぜ、戦いをのぞ
むのか・・・。
目の前にひろがるのは、
昼なお暗い、ヴェルダンの大
森林。
精霊が住むという森に、
シグルドは足を踏み入れよう
としていた。