ベグニオン暦648年 初夏――
大陸北東に位置するデイン王国は
隣国クリミアとの戦いに敗れ
両国の宗主国たるベグニオン帝国の支配下にあった
帝国の派遣した駐屯軍によりデインの戦える
世代の男は皆一様に収容所に送られ
厳しい労働に従事させられていた
残された老人や子供たちも例外なく飢えと貧困に喘ぎ
その日を生きる糧を得ることさえ困難な状況にあった
辛くも帝国軍の手から逃れた若者たちのよって
組織される義賊 【暁の団】 は
デインの民を救うために戦っていた
しかし、強大な駐屯軍の力により、国情は悪化の一途を
たどるのみであった。
そんな折
【暁の団】 の少女ミカヤは
先のデイン国王アシュナードの遺児がいるという
情報を手に入れる
治めるべき王族を中心に国がまとまれば
再び祖国を解放することができるかもしれない
ミカヤと仲間たちは希望の糸口を求め
死の砂漠へと足を踏み入れた
吟遊詩人は詠う
テリウスの歴史は
ベオクとラグズの戦いの歴史でもあるのだと
武器と叡智をもって戦うベオクに対し
自らの肉体を
獣 ・鳥 ・竜へと化身させて戦うラグズたち――
女神の手によって等しく生み出されながら
彼らは互いを認めることはできない
セリノスの白鷺王子ラフィエル
ハタリの狼女王ニケとその従者オルグ――
3名のラグズとの邂逅が
自らにいかなる運命をもたらすのか……
ミカヤはまだ知らない
武をもって名を馳せ、デイン王国を破滅へと導いた
亡きデイン国王アシュナード――
【狂王】 と呼ばれた彼の息子ペレアスは
父とは対照的に温厚な人柄であった
それは、乱世に不向きではあるが
ミカヤの瞳にはむしろ好ましいものとして映った
ペレアスはデイン王国の正式な王子として名乗りを上げ
駐屯軍打倒の兵を挙げる
王子の傍らには
彼に望まれるまま解放軍の将となることを決意した
【銀の髪の乙女】 の姿があった
解放軍の快勝により、戦況は有利に傾くかに思われた
しかし、駐屯軍の将ジェルドの機知によって阻まれ
現在の劣勢を覆すほどには至らなかった
駐屯軍はデイン国民から吸い上げた豊富は資金を使い
武器や装備を増強
同時に傭兵も大量に雇い入れたのだ
解放軍に志願する者も多くいたが
そのほとんどは老人か年若い少年であり
意欲はあれども即戦力たりえぬ者ばかりだった
駐屯軍と互角に戦うため
収容所に捕らわれているはずのデイン兵たちを救出する
それが、今解放軍の急務となっていた
ウムノ収容所の制圧と
ラグズたちを率いたトパックの参戦により
解放軍は戦力の大幅な増強に成功
ダルレカなどの要所を次々と連破し、戦力圏を拡大した
これにより安定した拠点を得た彼らは
勢いに乗って各地の収容所を次々と解放
経験豊富な兵たちを取り込みながら
王都をうかがうまでになった
それに呼応するようにデインの国内の暴動も激しさを増す
兵力的に、いまだ駐屯軍が圧倒的優位を保ってはいたが
その苦戦は誰の目にも明らかになってきた
捕虜救出のため、あえて敵の罠に飛び込み
寡兵で駐屯軍を打ち破ったミカヤ
イズカが宣伝するまでもなく
シフ沼での彼女の活躍は瞬く間に
デイン中に知れ渡ることとなった
人々はミカヤを女神の使い――
【暁の巫女】 と褒め称え
待ち望んでいた救世主の出現に胸を躍らせた
各地では民衆が一斉に蜂起
その爆発的な広がりは散発的な暴動の域を越え
駐屯軍といえども、もはや抑えようがなかった
ここにいたって、ジェルド将軍はデイン全土の掌握を断念
駐屯軍を王都周辺に集結させる
いまだ解放軍をはるかに越える大兵力で
分厚い守りを固めようとしたのである
しかし、勢いづく解放軍にとって
士気の低下した駐屯軍はもはや敵ではなく
次々と防衛線を突破していく
ラグズの件で
ミカヤたちはイズカとの確執を内包したままであったが
解放軍は破竹の快進撃を続け
ついに王都まで数日というところに迫った
かつての 【四駿】 漆黒の騎士の助勢により
ジェルドの奇襲は失敗に終わった
しかし、ミカヤが危惧した通り、彼は最後の反撃に出る
本国ベグニオンよりの使者を殺害し
ふたたびデイン王城を支配下に治めると
複数の投石器で城下街を破壊し始めたのである
使者の到着によって
一時的にではあるが平穏を取り戻していたネヴァサの街
そこへ巨石が次々と降り注ぐ
破壊され、押しつぶされる家々
人々の悲鳴と怒号が交差し、怨嗟の声が町を覆う
視察団との会見のため
王都近くの丘で陣を張っていたミカヤたちは
目の前で突如始まった残虐な行為に言葉を失っていた